PUMPS
MAKING STORY
始まりは「足入れの良い革靴
プロジェクト」から―
パンプスは、適切なサイズを履いてもらって初めて、それが持つ本当の価値を感じてもらえる商品です。
美しく、履き心地がいいパンプスを受注生産していくうえで、サイズの物差しにする標準の靴型のモデリングは、
「産学官」の協力で開発する「足入れの良い革靴プロジェクト」として始まりました。
人間工学の権威とパンプス製作のスペシャリストが仮説、実験、修正と粘り強い地道な研究を繰り返す現場では、
「私たちは、作りやすい靴型の形とかコストにはとらわれず、履きやすい靴型の研究をするんだよね」との開発コンセプトを確認し合う
熱い討論がなされ、総計で3,000人の女性のデータを取りながら、
やがて288パターンを生む原型となる基本靴のモデルが実に3年をかけて完成に至りました。
それは、ある失敗から得た逆転ホームランの大発見だったのです。
産学官で挑戦する、「足入れの
良い革靴プロジェクト」とは
女性たちひとりひとりの履きたいパンプスを多様なサイズ展開で実現することと、
その標準化の仕組みづくり、そしてそのシステムを活用するほどお客様にも事業者にも価値が生まれるものにすること。
それをメーカーの垣根を越えて、靴業界全体でサイズを標準化してMADE IN JAPANでやろうじゃないか。
こうした革靴業界の思いから、2011年より経済産業省、産業技術総合研究所、
全靴協連の産学官協働で、日本女性の足をさまざまな観点から調査・分析してデータを積み上げ、
多くの女性が「履きごこちが良い」と感じるパンプスの靴型を研究する、前例のないプロジェクトがスタートしました。
その手順は、3D計測器を駆使した足型データの収集にはじまり、分析と実験を繰り返した成果から、
パンプスのサイズを標準化した認証基準靴のブランド「i/288」が誕生していきます。
一度、足にフィットするこの「i/288」のマイサイズがわかれば、「i/288」の認証を得るどのメーカー、
どのブランドの靴を選んでも、同じフィット感を得られることが目標です。
同時にメーカー側はバックヤードで材料ストックを効率化し、この取り組みが広がることで、
在庫リスクを軽減して靴産業全体の収益拡大にも寄与します。
「i/288」はまだ始まったばかりながらオーダー数もリピーター率も導入メーカー数も着実に広がりを見せ、
トレーサビリティーの品質管理を徹底することで返品率が半減するメリットも生まれています。
研究開発プロジェクトの背景
家庭に、社会に、世界にと多様なシーンで活躍する女性たちのフットワークを、
より快適に軽やかに、美しくサポートする、履き心地のいいパンプス。
これを、独自に科学的に研究した成果を基にしたi/288オリジナルの靴型を使用して、
天然皮革を用いて国産の技術で提供すること。
そして気に入っていただいて「また買いたい」と思っていただけるクオリティーに到達することが、
「足入れの良い革靴プロジェクト」の目指す肝ともいえる目標です。
女子大学生向けのとあるニュースサイトの男女学生を対象にしたアンケート調査によると、
ネットで買いたくないものの第1位が「靴」でした。
理由は明白で、サイズ表示を頼りに購入してもサイズ感、履き心地に違和感があるなどのトラブルが多いためでした。
足の造形や形状の特徴はそれほど百人百様の微妙なものです。
このデリケートな立体構造に対して、どのように科学的に標準化するかを考えたのが、本プロジェクトです。
キワもマジョリティーも極めた
からこその自信。
i/288の靴型
が開発されるまで
本プロジェクトを通じトータルで3,000人以上の女性たちに、実際にさまざまな靴を履いてもらい、
履き心地の良さを数値化する官能試験を行いました。
はじめに国内有数のブランド、メーカーに10年以上売れ続けるロングセラーのパンプスを提供していただき、
集まった中から、様々な形の足の被験者に広く高い評価をもらえたパンプスを見つけ出したのです。
このパンプスの靴型をベースに人間工学の博士チームが靴内部で足の載る底部になる土台に対して、
前へ滑りにくい形を考察して変更を加え、評価を高くするための作業を積み重ねていきました。
その過程で、人が歩く際に重要となる3つの点をつないでみると、
その三角形は実際の足と靴とで重ねると、ずれがあることが分かりました。
人は素足で歩くときに足の裏の「親指・小指の根元・踵の真ん中」の3点が地面に着きます。
全体重を支えるその大事な3点とは、親指付け根の盛り上がった部分(拇指球)・小指側(小指球)・踵。
その3点を結ぶ三角形状に横と縦2本の凸状の反りがあり、この橋脚のように骨が並んだ3つのアーチ構造をもつことで、
接地時の荷重の衝撃をしなやかに分散し支えながら推進方向へクッションのように柔らかくリフトアップしています。
そこで実際の足の三角形に沿った靴型に変更を加えてまた実験すると、これが大不評。
原因は、ヒールのある靴に足を入れると、小指が床から離れ、着地時とは三角形が異なることにあったと判明。
変更を加えて張り出させたスペースは、ただの隙間化、デッドスペースとなってしまったのです。
実際に素足で立って軽く踵を上げてみると分かりますが、3点支持が2点になると、なんとか5本指で踏ん張り、
ぐらつきを押さえます。さらにヒールアップさせ踵を上げてみると、
小指は床から離れ、拇指球のみの1点支持で4本指で踏ん張りますが、身体はグラグラして倒れます。
これが、パンプスを履いた状態です。
フラットな地面に立つときは使えている小指が、ヒールを履くと浮き上がるため、
実験用の靴を着用したときには隙間が生じてしまいました。
「何かで埋めれば元の靴と同じ、勿体ないから埋めてみましょう」と博士。
元の靴には戻らないのですが、パンプス着用時の小指の浮き分をトレースして構造体として付加して、
また実験をしてみると、これが高評価を博しました。
「前のほうが痛くなくなった」という人が多く、「靴が柔らかく感じる」という声まで。
この隙間を埋める構造体(スペーサー)付加したことで小指の力が地面にしっかり伝わり、
元来の「踏ん張って立つ・支えて踏みこむ・蹴り上げて進む」働きがスムーズにバックアップされたのです。
このヒールを履いていても5本指が機能するために、歩きやすく抜群の履き心地になる
スペーサーなる新機軸の構造の発見で、標準靴のモデリングが前進しました。
実証実験などを共にした靴の専門家や多分野にまたがる専門家や女性たち、関係機関などから
リアルな称賛の声を目の当たりにした、膨大にして貴重な時間の厚みと、公正性を期した実験に現れた数字。
これらは、基準靴のモデル革靴を設計し、消費者に提供するためのサイズを288パターン展開するうえで、
揺るぎない自信を与えてくれました。そして本プロジェクトはさらに次のステージへ歩を進めます。